アリス・ファーム へようこそ! 北海道 赤井川村 から ブルーベリー ジャム と 北の暮らし をお届けします。


食卓日記マーク
#43 (2022.12.18)
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初夏のバタフライガーデン

死ぬまでに栽培したい花のリスト
トサカケイトウ(束鶏冠鶏頭)
 今年は死ぬまでリストから拾ってケイトウと金魚草を栽培することにした。両者ともおかしな形をした花をつける。その花が開く様子を確かめたかったからだ。
 ケイトウの花のイメージは暑苦しい花といったものだろう。かつては民家の狭い裏庭などに見かけた様な気はするが、最近では庭でケイトウを栽培しているなんていう話しは聞いたことががない。絶滅危惧種に近いのかもしれない。

 花カタログを開くと予想に反して色々な種類のケイトウがのっていた。ケイトウと聞いて真っ先に頭に浮かぶのがトサカゲイトウ。「束鶏冠鶏頭」と書く。その字面からして暑苦しい。花の名称というよりも名古屋コーチンや薩摩地鶏のようなブランド鶏の名称のように見える。

トサカケイトウのトサカは日々、成長を続けている
 トサカケイトウは肉厚のトサカが幾重にも重なり、波打ちながら横に拡がっている。トサカが横ではなく縦に伸びたのが「ウモウケイトウ」で幾分スッキリした印象、さらにもっと細長くキャンドル状に伸びると「ヤリケイトウ」(ノゲイトウ)。ここまで変形すると黙っていればケイトウには見えない。ヤリケイトウは長めの花穂に柔らかいピンクの花がつく。石垣島の箱庭果樹園ではすごい勢いではびこっているので雑草扱いされているが、持ち帰って青いデルフィニュームの隣などにひっそり添えるといいかもしれない。

 種苗カタログによると「トサカケイトウ」はおなじみの赤だけではなくオレンジ、ピンク、黄色など色も豊富なら20〜100cmと草丈も様々。ページの真ん中あたりに草丈が高くてライム色の花をつけたケイトウの写真があった。それは個性派が揃うトサカケイトウの中でもひときわ異彩を放っていた。これだ! トサカの形は異様でも薄緑色なら他の花たちと上手くやっていけるかもしれない。菜園のバタフライガーデン(のつもり)の後方に植えればそれほど目立たないだろう。早速、注文リストに加えた。パーキングエリアのプランターなどで時折目にする古典的な赤やオレンジ色のトサカケイトウにも食指が動いたがここはぐっとこらえた。

 春、4月の半ばに他の一年草の花と一緒に温室で種を播いて育苗スタート。一年草だから元気がいい。40日ほどで一人前の苗に育った。野菜の苗作りや定植の合間をぬって5月に菜園のバタフライガーデンに定植、他にめぼしい苗がなかったのでシナモンバジルや柔らかな色のカレンジュラと混植してみた。あとは花が咲くのを待つだけだ。

 1ヶ月ほどして我らがケイトウに小さなトサカを発見! おやっ、いつの間に。蕾みのようなものはなかったのに。小さいけど一人前にトサカの形をしている。小さいけど分厚い花弁が波打っている。栄養不足か定植時期を間違えたせいでトサカが小型化してしまったのだろうか。ともかく生涯栽培することはないだろうと思っていたケイトウに花が咲き「死ぬまでに栽培したい花のリスト」は一行だけ短くなったのである。
 しかしこれで終わりではなかった。小さなトサカは少しずつ成長を始めたのである。開花してから1週間、2週間、ケイトウは種袋の写真のような立派トサカをもつ花に成長したのである。まことにめでたいのだが何となく腑に落ちない。この違和感は何だろう。蕾みが少しずつ解けてやがて満開を迎えるという一般的な開花のプロセスとは違い、トサカの成長ぶりは人間の子供が年を経て大人になる、かわいらしい仔猫がやがてふてぶてしい肥満猫になるというような動物的な成長プロセスと酷似しているのである。
 一般に花というのは開花すると滅びに向かって進んでいくようなある種のはかなさを感じさせるものだ。しかしケイトウには滅びに向かうはかなさなど微塵も感じられない。


この小さな集合花がケイトウの花。
目立つトサカは虫を呼ぶためのフェイク花。
 しかしこのトサカのどこに蜜や花粉が潜んでいるのだろう。蝶はもちろん他の昆虫の姿も見かけない。疑問を解くべく調べてみると花とばかり思っていたトサカは実は花ではなかったのである。波打つビロード状のそれは花ではなく茎の先が変形した花序というものだった。アジサイの花のように昆虫たちに花の存在を知らせるための広告塔、フェイクの花だったのである。よく見るとフェイク花序の根元あたりに小さな花のようなものがかたまっている。これが本来のケイトウの花だったのか。花弁は5枚雌しべ1本と雄しべ5本、しばらく眺めていると小さなアブが飛んできた。
 トサカがあまりに堂々としているので本来の花を見逃していたけどケイトウというのはこういう構造の花だったのである。動物のように成長していたのは花ではなく花序だった。なるほど。もしケイトウを栽培しなかったらケイトウの花はトサカだと一生思い込んでいただろう。

 ライム色のケイトウは紫色や緑色のバジル、一重の百日草と違和感なく調和してキク科の花々が多いバタフライガーデンのアクセントになった。何より丈夫な茎が重たい花を支えて自立してくれるのがありがたい。トサカケイトウは蝶には見向きもされないけど臆することなく堂々と咲き誇っていたのである。
 肥大したトサカを落として丈を詰めれば夏の終わり頃にはもう一度花を咲かせるだろう。でもトサカの迫力に圧倒されてどうしても切り落とすことができなかった。
 来年は「トサカケイトウ」から派生したという「久留米ケイトウ」を植えてみよう。どなんトサカに出会えるか楽しみ。

金魚草

芳香を放つ金魚草は最高のウエルカムフラワー!
レモネードは意外と伸びやか。
 動物シリーズというわけではないが、今年は金魚草も栽培してみた。金魚草については何となくこまっちゃくれた花だと思っていた。道路ぎわに設置された花いっぱい運動のプランターにピンクや黄色の丈の低い金魚草が植わっていることがある。赤いサルビアなどと組むことが多い。わが菜園で丈の低い花といえばマリーゴールド一辺倒、長年にわったって揺るぎない地位を確保している。
 マリーゴールドは奔放で陽気なうえに、丈夫で花期が長く、野菜の緑ともよく調和する。控えめな一重咲きの小花を選べば、夏でもそれほど暑苦しくないから金魚草には関心が向かわなかったのである。

 種苗カタログを開くと金魚草はケイトウよりずっと愛好家が多いらしくて花色も様々、そして草丈も様々、種類がかなり多い。思いがけず高性の金魚草というのも存在していた。さすがに青や紫色はないものの白花はある。写真で見る限りスクスクとそれなりに伸びやかな雰囲気があり、長い花穂に小花がたくさんついている。それぞれの花はあの金魚の形だけど集合体になるとこまちゃくれ感は薄れてルピナスの様だ。白花だけでは寂しいのでレモネードという美味しそうな薄黄色の種子も注文した。

これが外敵のセイヨウオオハナマルバチ
 これもケイトウ同様、温室でスクスク成長してバタフライガーデンに定植される日を心待ちにしている様子。花が咲き始めた徒長ぎみの苗を倒伏しないようギュウギュウに密植した。舗石に沿って植えたライム色の高性百日草とローブッシュブルーべリーの間に押し込んだ。予想通り花の重さに耐えかねた苗はバタバタと倒伏したが、支柱を立てるほどでもないし、めんどうなので金魚の形をした花をスパスパ切り落としてしまった。しかし金魚草はひるむことなくすばやく立ち直り、夏の盛りには二度目の花をたくさん咲かせた。
 白とレモン色の花は意外と爽やかで、緑色や古典的な花色の百日草ともよく調和してくれた。
 心地よい芳香を放ち、思いがけず菜園のウエルカムフラワーの役割も果たしてくれた。甘い香りに誘われてたくさんのマルハナバチが終日吸蜜にやって来た。オオマル、コマル、トラ、チャイロと常連に混じって、あのセイヨウオオマルハナバチまで姿を現した。この外来種のマルハナバチは生態系を乱すハチとして特定外来生物に指定されている。見つけ次第、退治しなくてはいけない。大型でお尻が白いので判別は容易、常連の愛らしいマルハナバチに比べると気のせいか態度物腰も顔つきも何となくふてぶてしい。常備した捕虫網を振り回して捕獲に励んだ。これだから菜園仕事は一向にはかどらない。

 金魚草は香りもさることながら特質すべきはその頑強さ、紫色のサルビアとともに低温にも霜にも負けず花を咲かせ続けている。光に誘われてハナアブが時々やってくる。名残のエルタテハなども訪れる。
 今年の動物シリーズ、鶏頭も金魚草も見事に予想を裏切ってくれたので来年も栽培してみよう。来年はバタフライガーデンを拡張しないととても納まりそうにない。

アスター

アスターが咲き始めた。この蕾みたちが咲き揃うと・・・
 去年は恐る恐る栽培したアスターだったが、丈夫で花期も長くて蝶たちにも大人気だったので今年も栽培することにした。今年は紫に加えて白、真紅、アプリコットの4色の種を播いて育苗した。やや徒長した100株を越す苗をバタフライガーデンと陽当たりのいいサンガーデンに定植した。アスターはキク科の花だ。ひまわりも百日草もコスモスもマリーゴールドもキンセンカもキク科の花だ。キク科の花々だけを集めても素敵なガーデンができるだろう。逆に言うとキク科の植物なしには1年草のガーデンは成り立たない。

 西欧園芸の華がバラなら日本園芸の華はキクだ。キクは異様なまでに様々に変化してキクだけで分厚いカタログが作成されている。それだけ愛好家が多いのだろう。
 谷津遊園の菊人形は今でも秋の風物詩なのだろうか?
 キクは紛れもなくバラに匹敵する園芸界の女王だろう。
 それは認めるけど豪奢で人工的な感じがするキクもバラも野生に近い農場の庭には似合わない。主張が強すぎるのだろうか。
 私が栽培しているキク科の花は、百日草やマリーゴールド、矢車草やコスモス、何気なく選んできたつもりだったが、キク科のくせにキクには見えない花々を選んでいたのである。「菊度」が低いキク科の花々といったらいいのか、無意識のうちにそういう種類を選んでいたのである。
 その観点からするとアスターは「菊度」がかなり高い。去年は20株程度だったからそれほど目立たなかったけど100株近くのアスターが集団で咲くとキクそのものなのである。菊度はMAX。しまったと思ってもいったん定植したアスターを抜くわけにもいかない。アスターは花が少なくなる秋まで咲き続けるから、昆虫たちにとってはありがたい蜜源植物なのである。彼らのためにも多少気に入らなくてもアスターを育て続けなければいけない。
 これほどまでにアスターの菊度をUPさせてしまったのはきっとまとめ植えのせいだ。20株、30株とまとめて植えたのがいけなかったのだ。アスターは小うるさい宿根草と違い、競うようにして無邪気に花を咲かせて菊度をますますUPさせるのである。アスターの菊度を下げるには分散させて植えるのがいいのだろう。分散させた上で菊度の低い矢車草や一重咲きのダリアや紅花、或いはシソ科のサルビアやニゲラたちと一緒に植えればいいのかもしれない。
 来年はオレンジ色の紅花の隣に紫色の高性のアスター、黒いダリアの隣に紅色のアスターというように分散させて植えてみよう。

 庭に定着するもの、去るもの、また戻ってくるもの、一年草の花は気軽に試せるからありがたい。ヘリオトロープや紫色のサルビアはすっかり菜園の常連になった。ヘリオトロープはコスレタスや黒キャベツと張り合って濃紫の花を咲かせるし、昆虫たちに慕われ、大いに頼りにされている紫色のサルビアは不意の吹雪にもひるまず咲き続けている。気難しい宿根草や開花に何年もかかるよう山芍薬やカタクリではとてもこうはいかない。
 近年、菜園は様々な野菜とカラフルな花が混在する一年草の庭と化している。
 死ぬまでに栽培したい花のリストの中から数種類ずつピックアップして毎年栽培してきたが、リストは少しも短くならない。それどころか逆に長くなっていくような気がする。
 急がないとリストに記された花をすべて消化するのは難しいかもしれない。急がないと。

左/ここ数年来、菜園にすっかり定着したヘリオトロープ
右/ひいきしているオリエンタルポピー、強烈な赤いポピーに負けそう

南国野菜が好きだ
 北海道では馴染みがないが、沖縄や九州ではでよく目にする野菜をまとめて南国野菜と呼んでいる。かつてはゴーヤーが南国野菜の代表選手だったが、ゴーヤーはチャンプルーをきっかけとしてメジャー化して北上し、北海道の直売所でもふつうに目にするようになった。菜園でも10年近く栽培している。ツルムラサキしかり。定番の野菜スープには欠かせないので時期をずらして大量に育苗して栽培している。せっせと葉を摘み取り、せっせと冷凍して冬に備える。最近では1年分のツル紫がまかなえるようになった。
ゴーヤーやツル紫は今や北海道でもふつうに栽培されているので南国野菜に分類する必要もないだろう。

南国野菜その1 雲南百薬
 雲南百薬というのは多分、石垣島での呼び名で一般にはオカワカメという名前で苗が販売されている。
 支柱を立てるとツルが絡みついてどこまでも上っていく。同じ仲間のツル紫より葉っぱが小さくて厚さも薄い分、クセがなくて使いやすい。スープはもちろん、塩麹大蒜炒めやカキ油炒め、サッと湯がいてナムル風のお浸しにしても美味しい。百薬もツル紫同様どんどん収穫して冷凍しておくが一度冷凍した葉は炒め物には使えないので、たいていスープに放り込んでいる。キャベツや玉葱など10種類を越す菜園の野菜たちと協力して雲南クンもスープの旨味増進に貢献しているのだろう。収穫した野菜を刻んだりちぎったりして鍋に放りみ、米麹多め塩分控えめの味噌を加えるだけですごく美味しい野菜スープができる。スープストックも出汁もなし。仕上げにパクチーやチャイブを散らしたりコチジャンやナンプラー、各種スパイスなどを加えて変化をつけると毎日食べ続けても少しも飽きない。味のベースはトマトと味噌なのだが、野菜の種類が少ないと何となく物足りない。


雲南百薬の花で吸蜜するハナアブ、急げ急げ! もうじき雪
 夏の終わり頃、百薬にはブラシ状の花が咲く。すると葉の付け根に奇妙な形をしたムカゴができる。豊作の年だとムカゴが山のようにとれる。これも食用になるのだろうが、まだ食べたことはない。翌春、保存しておいたムカゴをポットに埋めておくと百薬の苗ができる。南国では地面に落ちたムカゴが勝手に発芽して成長するから嫌われ者化しているらしい。
 秋に茎を掘り起こすと根っこにはゴツゴツした芋がたくさんついてくる。これも多分食用にも繁殖用にも使えるのだろう。百薬はとても効率のいい野菜なのである。

 今年、温室の百薬に花がたくさん咲いた。花が少なくなる秋の終わりに百薬の花めがけてハナアブが大挙して押しかけてきた。次から次へとやってくるハナアブが白い花にぶら下がって、おだやかな陽射しを浴びて吸蜜している。秋の日が静かに暮れていく。最後のひと房が枯れるまでハナアブの姿が絶えることはなかった。例年なら寒さで葉が傷み始めたらすぐに抜いてしまうのだが、今年は葉も花も枯れるままにしておいた。思いついて花をいくつか切りとって種をとった。来年はムカゴ、芋、種子と3通りのやり方で育苗してみよう。
 こんな素敵な百薬がなぜ普及しないのか不思議に思う。ツル紫に比べると育苗が簡単でツル紫よりも寒さや逆境に強い。今、栽培している百薬の祖先は数年前にオークションで入手したムカゴ、確かヤフオクで10個300円だった。

南国野菜その2 ハンダマ
 これは南国野菜というわけではなく北陸地方では金時草、熊本では水前寺菜の名前で親しまれている。濃い緑色の艶やかな葉、肉厚の葉を裏返すと紫色に近い鮮やかな牡丹色。色彩の変化に乏しい葉物野菜の中では珍しく観葉植物のような色合いの野菜なのである。沖縄ではハンダマだが、台湾のマーケットでは紅鳳草という立派な名称で販売されている。
 石垣島の友人にハンダマの種か苗をどこかで入手できないだろうかと尋ねるとあれは雑草だからそんなものは売っていないと言われた。放っておけば自然にふえるし、挿し木でもすればグングン育つのだろう。とはいえ、私はいちから栽培を始めるのだからなにがしかの元手が必要になる。
 那覇で飛行機の待ち時間に農連市場にある苗屋さんをのぞいてみた。すると店先の棚に黒ポットに入ったハンダマの苗が並んでいるではないか。3号ポットの苗が1鉢60円。メッケとばかりにおじさんに購入したい旨を伝えた。これから北海道に戻るけど温室があるから北海道でも栽培できると思うと話したとたん、おじさんの手がとまった。北海道じゃ絶対に無理、いや温室で育てるから、いや無理、でも温室と押し問答していると周辺の店からおじさんたちが集まってきて無理無理絶対無理、やめとけやめとけの大合唱。温室とかダメ元とかの私の主張はかき消されてしまった。
 飛行機の出発時間が迫ってくる。でもここで諦めたらハンダマは栽培できない。粘らないと。するとよしっ、苗屋のおじさんはやおらビニールポットから土つきの苗を1株ずつ取り出すと6株まとめて新聞紙で包んでくれた。ポットを外されてかなりコンパクトになった苗をぶら下げて空港に向かう。こんなに苦労して手にいれたのに空港で没収されると悔しいから、さりげなく捕虫網に包んでリュックにそっとしのばせた。


ハンダマに初めて花が咲いた! 子孫を残せるか来年が楽しみ
 あれ以来、ハンダマは欠かさず栽培している。
 おじさんが言った通りハンダマの冬越しは温室でも難しい。ハンダマは最近、少しだけメジャー化したようで、毎年、通販で苗を購入して栽培してきた。しかし今年はちょっと出遅れたらいつもの苗屋さんではハンダマの苗が売り切れていた。またしてもオークションで苗を購入。腹立たしいほど粗雑な包装で半分以上枯れて届いたが、生き残った苗を救い出して3株ほど一人前の苗に仕立てた。これまで栽培してきたハンダマの葉っぱはきれいな楕円型だったのにこのハンダマは葉がかなり丸い。確かに葉の色は濃い緑、葉の裏は牡丹色、葉の厚さもいつものヤツと変わらない。果たして本物のハンダマなのだろうかと疑いつつ定植した。
 そして夏の盛り、なんとこのマルバハンダマが蕾みをつけたのである。どう見てもこれは蕾みだ。ここ数年、欠かさず栽培してきたが蕾みなんて初めて見た。3株のうち蕾みがついたのは1株のみ。全部で3個あった。朝の見回りでは真っ先に蕾みののところに飛んで行って早く早くと開花を促す。蕾みを確認してから1週間ほどでハンダマは開花した。ひょろっとした針金のような茎の先に開いたのはオレンジ色の紅花に似た小さな花だった。
 レタスだってキャベツだって、どんな作物でも放っておけば花は咲く。でもハンダマに花が咲くなんて想像もしなかった。寒い北国では、花まで咲かせる余力がないのだろうと勝手に思い込んでいたけどそれは誤りだった。これまでのハンダマとは系統が違うマルバだから咲いたのか、気候が幸いしたのか、ともかくハンダマは不意に開花したのである。
 3輪の花が枯れるのを待って、もちろん種子を採った。
 春になったら種を蒔いてみよう。さてどうなるか、ハンダマは丈夫で寛容なキク科植物だからもしかすると期待に応えてくれるかもしれない。マルバだから子供もマルバなのかなー。市場のおじさんのヤメロコールから数年、自力でハンダマ栽培が可能になるかもしれない。おじさん、だから大丈夫って言ったでしょ。


うりずんの花、南国生まれとは思えない涼しげな色合い
南国野菜その3 うりずん
 冬が終わって大地に再び潤いが戻ってくる季節を沖縄では「うりずん」と呼ぶ。「潤い初め」すてきな響きだ。その季節に一斉にひらく若葉の色とうりずん豆の莢の色が重なってこのマメ科の野菜はうりずんと呼ばれるらしい。東南アジア原産だろう。去年初めて栽培してみたが、大ぶりで涼しげな色合いの花に惹かれて今年も栽培することにした。
 豆類というのはトマトやキャベツに比べて成長が早い。インゲン豆などはジャックと豆の木並みのスピードで支柱を這い上り、根元の方から次々と花を咲かせる。スナップ豌豆だって花が咲いてから莢が脹らむまでの時間が短い。
 それなのにうりずんはゆっくりゆっくりひとりマイペースを貫いている。発芽もゆっくりならその後の成長もゆっくり。
 今年は青い花のうりずん、赤い花の花豆、白い花のエンドウを並べて栽培してみたが、白花、赤花が開花してもうりずんは蕾みもつけない。三色花同時開花の目論見は見事にはずれてしまった。
 うりずんの花が咲き始めたのはえんどうの収穫が終わりかけた頃だった。北海道の寒さにびっくりして出遅れてしまったのかもしれない。確かにうりずんを菜園に定植した6月はダウンが手放せないほどの低温が続いた。


うりずん豆、サクサクとした食感が身上。
意外に豊産。
 うりずんの花は観賞用の花としても十分通用するすてきな花だ。花の美しさでいえばハイビスカスの仲間のオクラといい勝負だろう。
 去年は2株しか栽培しなかったのでゆっくり花をながめたり実を味わったりする間もなくうりずんの季節は終わってしまった。今年は12 株にふやしたので花が次々に咲いて大いに楽しませくれた。大ぶりの青紫の花は軽やかで南国の花とは思えない涼しげな風情がある。
 赤や黄色やオレンジ色の派手で暑苦しい花が多い菜園にあってうりずんエリアは別世界のようだ。
 花が咲き終わると掟通りに小さな莢がついた。うりずん時のしっとりした若葉の色だ。若い緑の色にふさわしく莢はフワフワと軽快な感 じがする。サヤインゲンを軽く軽くした感じ。四角く角張った莢を若い内に摘んで、サッと茹でる。サラダに散らすとポキポキした食感が上等なアクセントになる。もったりした苦みのトレビス、ごま風味のルッコラ、しゃきしゃきした健康優良児のコスレタス、甘くて爽やかなサラダ用フェンネル、パクチーやチャービル。夏の間中、うりずんはグリーンサラダには欠かせない大切なメンバーとなった。グリーンサラダの醍醐味は多種多様な葉っぱが醸す複雑な風味に加えて多種多様な野菜が提供してくれる様々な食感にある。シャキッ、サクッ、ポリッ、ホワッ・・・
 うりずんの季節が終わった秋のサラダはポキッが消えて少し物足りなかった。でも代わりにブロッコリーの小さな花蕾が次々にとれ始めてコリッが加わったのでうりずんのことは忘れてしまった。うりずんは淡々と脇役を演じてスッと消えていくのが得意な野菜なのだろう。

南国野菜番外ローゼル
 ハーブのカタログでローゼルの種子を見つけたので購入してみた。ローゼルの赤い実は酸味が強くてビタミンCが豊富なのでハーブティーによく利用されている。石垣島の箱庭果樹園では雑草の如く元気に育っている。誰かが植えたのか、自主的に移動してきたのか定かではないが、多分、今頃は赤い実をつけているのだろう。

ハイビスカスのようなローゼルの花は
やはり北国には似合わない
 春、温室で数粒の種をポットに播いたら2個だけ発芽して順調に背丈を伸ばした。適温が分からないから2鉢のローゼルを温室から出したり入れたりしてそれなりに面倒をみたかいあってか夏の盛りに1輪、秋の初めに2輪の花が咲いた。蕾みはたくさんついたものの開花することもなく大半はしぼんでしまった。ローゼルはハイビスカスの仲間だ。ピンク色の大ぶりな花はいかにも南国らしい。
 ようやく開花まで到達したのだが、温室のローゼルは何となく無理して咲いている感じがして北国の温室にはなじまなかった。やはりローゼルは太陽がじりじり照りつける南国の青空によく似合う花だ。

菜園の惨状を直視しよう
 トマトもナスも胡瓜も近年になくできが悪かった。72株定植したトマトは定植後間もなく葉が枯れ上がり花もわずかしか咲かず、したがって実も少ししか採れなかった。実の量は去年の1/4にも満たない。量もさることながら味がよくなかった。不味かった。
 菜園の見回り時に完熟したトマトを口に放り込んで、隣のバジルなどもつまんでサラダ代わりにするのが夏の朝の日課だったのに今年はそんな気にはとてもなれなかった。それもそうだ。枯れ上がった葉では光合成もままならないだろうから実に栄養を回すどころではなく株を支えるのが精一杯だったのだろう。まずは生きることで精一杯だったのだろう。
原因は何か?


寒々とした6月初旬の菜園。
定植した苗は勢いがなく支柱ばかりが目立つ
やけに寒い6月だった!
 いつものように温室で育てた苗を定植したのが6月の初め、これは例年通りのペース。
 ナスや胡瓜、ゴーヤー、雲南百薬の苗も一緒に定植したのだが、これらの野菜は揃って出来がよくなかった。6月前半の最低気温はほ ぼシングル、昨年と比べて8℃以上、低い日もあった。思い起こせばダウンをしまえずにグズグズ文句を言っていた頃だ。
 定植時の低温は苗に大きなダメージを与えたのは間違いない。定植を1週間遅らせておけば問題はなかったのかもしれない。1週間ずらして定植したキャベツやブロッコリーなどのブラシカ類やツル紫、豆類は例年通りのできだった。やはり6月初めの低温は夏野菜の苗を傷めつけたようだ。

土に休暇を!
 トマトの不作の原因は定植時の低温、果たしてそれだけだろうか?
 ここ2,3年、最盛期に比べると菜園の力が衰えてきたような気がする。キャベツやブロッコリーなどのブラシカ類は別として最盛期を100とすると去年は80、今年は50という感じ。
 薄々は感じていたけど、やはり菜園の土が疲弊してきたのだろうか。休みなく働いているから本当はクローバーとかエン麦のような緑肥作物でも植えて特別休暇を与えてやるといいのかもしれない。豊作が当たり前、少しでも実つきがよくないとあれこれ詮索されて見当はずれの処置が施される。もう十分なのに1日中、スプリンクラーで水を与えられる。本当はリン酸がほしいのに今日も水、土だってもうヤダと自暴自棄になるのも無理はない。
 菜園は6区画に区切られているが、来年はその内の1区画に土に負担のかからないような作物を栽培してみようと思う。1年草で暑さ寒さに強くて風景としても菜園になじむような植物、何がいいだろう。高性のマリーゴールドや麦類も魅力的。でも種を播いたら最後、無関心ではいられなくなって結局、色々と手をかけてしまいそうな気がする。土が一番欲しがっているのは耕起でも肥料でも水でもなくひたすら人間の無関心なのかもしれない。

 春先、菜園には知り合いの牧場からもらって何年か寝かせた堆肥や鶏糞、石灰を投入している。いい加減にバラ撒いているから作物にとって十分かどうかは定かではない。
 土が喜んでいるのかどうかも定かではない。

 それで今年は来年に備えて土が喜ぶような堆肥作りにまじめに取り込むことにした。菜園の近くには立派な木製の堆肥槽があるにはあるが、大型過ぎて面倒がみきれないので温室に家庭用堆肥ポットを設置することにした。ホームセンターでよく見かけるお寺の鐘のような形をしたあのプラスチックの容器、どこの家にもあるけどたいていは邪魔者扱いされて菜園の隅に佇むあのおなじみのポット。手初めに100リットルというのを購入して設置してみた。いくらでもあるカエデやナラやツタの落ち葉を集めてポットに放り込んだ。家の外壁を這い回るツタが一番効率よく集められるのだが、堆肥の材料としてはカエデやナラには負けそうな気がしたので色んな種類の落ち葉を集めて投入、キッチンの生ゴミや菜園で引っこ抜いたブロッコリーなども刻んで投入、ついでに食品工房からあふれ出した1トン分のりんごの皮や芯も投入して、発酵促進剤やぬかも加えておいた。
 もうじき100リットルポットはいっぱいになる。いっぱいになったら土で覆って寝かせるらしい。材料はたくさんあるから500リットルくらいは難なくできるだろう。来春は無理でもいつかは菜園再生のために働いてくれるといいなー


悲惨! これが盛夏のトマトなんて、見た目通り不味い
種子が怪しい!
 秋、完熟したトマトの種をとって、冬期間、大切に保存して、春に種を播いて育苗する、という作業を繰り返してきた。大玉、中玉、ミニと合わせて10種類くらいのトマトを栽培している。お気に入りのトマトの株に印をつけておいて実を収穫して種を取り出す。種を水洗いして乾燥させて保存する、種をとるといってもただそれだけ。
 そして雪の山を眺めながら温室で種を播いて育苗する。私はここまでの一連の作業が園芸作業の中では一番好きだ。
 もちろん収穫は嬉しい。調理も楽しい。
 しかし春先の育苗にはかなわない。冬の間に貯め込んだ園芸熱を一気に育苗に注ぎ込むのである。

 トマトは在来種以外に一代交配(F1)の果実からも何代にもわたって採種して育苗してきた。その結果、F1の優れた形質(美味しくて頑強で多産)を受け継ぐ種子が次第に少なくなってきたのだろうか。F2世代以降になると去年はすごく美味しかったのに今年はあまり美味しくないということが起こる。去年はたくさん収穫できたのに今年は少ないということも起こる。代を重ねるうちに長所と短所をあわせもつ(病気に強いけど不味いとか美味しいけど低温に弱いとか)ご先祖さまに逆戻りした種子が増えたのかもしれない。自家用ならアハッハッですまされるけど販売用だとそれではすまされない。
 種苗会社との契約、種苗法なども関わってくるからプロの農家はF1種子は採種などせずに毎年新しい種子を購入する。私はなにも考えずに気の赴くまま採種して利用してきたから多分、菜園にはワケの分からないトマトがたくさん実っているのだろう。不味い上に病気に弱いとか、不味いくせに実のなりが悪いとか・・・・・。

 トマトは自家受粉が基本だから通常は他の品種と交雑することはないらしい。プロのようにフルティカならフルティカ、モモタロウならモモタロウというように種類限定で栽培していれば、交雑のしようもない。しかし菜園ではAの隣にBを3株その隣にCを4株というように複数の品種を栽培しているのでトマトAを訪れたマルハナバチがトマトBに飛び移って花粉を渡すということは大いにあり得る。これがトマトAとナスBの間なら結実することはないだろう。でもトマトAとトマトBの間ならトマトABというような交雑種が生まれるかもしれない。そのあたりの事情はよく分からないが、菜園には異種株間の交雑によっても変わり種トマトが出現している可能性もある。

 最近ではにオレンジ色の中玉トマトとかマイクロ級のミニトマトというような植えた覚えのないトマトが頻繁に出現するようになった。そういうトマトは例外なく不味い。生食には不向きなので、迷わずスープ鍋に放り込む。サラダやおやつ用には美味しいトマトを選べばいいだけの話し。少なくともこれまでは何の問題もなかった。何だコレ、変なの、アハッハッですましてきたのである。
 しかし、今年のトマトの惨状からすると長年続けてきたいい加減な採種はもう限界にきたのだろう。

 というワケで秋のメインイベントであった採種を今年は涙を呑んで中止した。
 とはいえ採種からスタートして播種、定植、収穫を経て再び採種に戻る栽培サイクルはこれからもずっと続けたいから、来年からは在来種に絞って栽培してみようと決めた。
 種苗会社から届く豪華カタログが勧める魅力的なF1の種子、果物並み糖度抜群! とか低温にも高温にも強い! というようなキャッチフレーズと縁を切るのは寂しいけど・・。
 土と光と水と種子があれば作物は育つ。採種から始まるサイクルを持続することができれば、種子は食糧危機に立ち向かう強力な武器になるだろう。その種子がF1のエリートたちではなくて昔ながらの在来種なら環境の変化に適応しながら安定した品質の作物を長期間にわたって私たちに供給してくれるハズだ。

 定植時の低温、土の疲弊、怪しい種子の三重苦が今年の不作の原因だろう。他にも原因は多々あるとは思うがとりあえず来年はこの3点にしぼって改善することにする。


暴徒化したナスタチューム、日々領土拡張に意欲を燃やしている。




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